地下空間と水害について、土木学会誌8月号より(2)

皆様こんにちは。ピースです。
ここ最近の東京は、雨が続いて気温も一気に下がったかと思えば、また急激に蒸し暑さを感じるようになりましたね。
私も多少喉を痛めてしまいましたが、このブログをお読みの皆様も、体調管理にはくれぐれもお気をつけください。

さて、本題は土木学会誌8月号特集「地下街は快適ですか-いま、都市の地下空間を考える-」からの引用によるお話の続きです。

今回は神戸学院大学現代社会学部社会防災学科准教授/土木学会地下空間研究委員会顧問である中山学先生による、「安全・安心な地下空間の創造-都市域における水防災のあり方-」からです。


この記事、前半部分もなかなか面白いのですが、引用は後半部分から。

都市型水害の対策

経済的に逼迫しているわが国の状況を考慮すると、ハード・ソフトの両面から対策する必要がある。豪雨に対して都市を守るためのインフラとして「下水道と都市河川」などハード対策が整備されてきた。ここでは、ソフト対策について述べる。
ソフト対策としては、一般的にはハザードマップの整備などが提案されているが、避難訓練、防災教育を実施することも有効であると考える。以下、水害時の危険性を正しく理解してもらい、迅速な避難行動の重要性を知ってもらうために実施した実物大の階段模型、実物大のドア模型を私用した避難実験及び水没した自動車からの脱出を目的とした避難実験について説明する。

(ブログ筆者注:以下は一部省略して、主要な結果のみ引用します。)

実物大の階段模型を用いた避難実験
高低差3mの実物大の階段模型(幅1m、蹴上げ高さ0.15m、全20段)を用いて実施した避難訓練(大学生以上105名参加、写真1)では、地上のはん濫水深が30cmのときに階段に水が流入してくる状況が成人の避難限界であった。

実物大のドア模型を使用した避難実験
56名(女性12名を含む)の被験者によるドア押し開け時の力の計測と避難体験実験を実施した結果、一般男性の体重が65kgfとした場合、浸水時のドアを開けて避難できる水深条件は40cm程度であることがわかった。

水没した自動車の挙動把握を目的とした避難実験
浸水深の増加に伴い、避難に要する時間が急速に増大した。避難の成功率に着目すると、浸水深の小さい条件から大きい条件に変化するに従って、成功率が減少する。すなわち、自動車の水没状況が進行すると、避難の可能性が著しく狭まるとともに、仮に避難ができても所要時間が増えることを考え合わせると、浸水条件下でのドアからの避難は浸水状況の進行に伴って容易ではなくなることが分かった。

さらなる安全性向上のために

災害時、市民の安全確保(少なくとも、人命を守る)と都市機能の確保が重要であり、そのためには、自助、共助と公助(水害に強いまちづくり)のレベルアップが重要であるので、前記のような体験型の避難実験をより多くの方々を対象として実施することが効果的である。また、都市域を対象とした通水タイプのミニチュア模型(写真3)を用いて「都市域に潜在する危険性」を認識してもらうための水防災教育を多くの方々に実践してもらい、危険をかぎ分け、回避する「判断力」を一人ひとりが向上させることが重要である。

土木学会誌8月号地下水害

この記事を読まれて、皆様方はどういう印象をお持ちでしょうか?

いくつかのキーワードについては、こちらでもすでにこれまでのエントリで取り上げていますね。

というわけで、ここではそれをより深く掘り下げるという面から1つ、それ以外の切り口から1つ、話題にしてみましょうか。

前者「キーワードの掘り下げ」ですが、これは1つ目の「ハード対策とソフト対策」についてです。
私がこの記事を読んで感じたことは、ソフト対策はハード対策に比べて、「他分野への応用・転用が利きやすいという傾向がありそうだ」ということです。

ハード対策の事例として、ここでは「下水道と都市河川」という要素が取り上げられています。
上下水道に関しては、前回、私の専門分野である河川との関連性は深いながらも「別分野」という印象が強いという話をしました。
そして、同じ「河川」であっても、これまで「都市河川」という感じのフィールドは(大学の研究室では多少ありましたし、仕事でも今後扱う可能性は高いですが)ほとんど扱ったことがなく、どちらかというと、大河川の上流部とか、急流河川など、山間部という感じのフィールドが多かったですが、やはり両者の間には、「現状をみての課題」について、大きな差があります。

一方、ソフト対策については、そういった都市部と山間部、あるいは地上空間と地下空間と比較すると、細かい違いはあるのですが、結構どちらにも共通する知識が多いでしょう(それについては、今回もこのあとの浸水深の話でも詳しく触れています)。
実際、この引用元の記事自体は、今回は割愛した前半部に「都市型水害」とか「内水はん濫」というキーワードを持ってきて、それを通して地下空間へ水の流入した際の問題について取り上げているのですが、引用箇所については、前文に書いた「都市部と山間部、あるいは地上空間と地下空間」という範囲では、ほぼ全てに共通するといって良い話ですよね。
だからこそ、一般住民の方々に危険性に関する知識を持ってもらうことが比較的容易ですし、また持ってもらう必要があることはいうまでもありません。
(ただし、上のキーワードでリンクしたエントリでもところどころで触れましたように、地震と水害に関しては、危険予測から実際にそれが到達するまでの時間の違いなどもあり、対策については異なるところが多いと言うこともいえますが。)

そして、後者の「それ以外の切り口」ですが、ここで先ほど述べました、30cmとか40cmという浸水深に関する数字に着目してみたいと思います。
この引用元の記事で挙げられている事例も、最後の自動車の実験だけは違いますが、「定性的」な話だけでなく、「定量的」な実験結果や、それに対する考察が取り上げられていますね。
私も典型的な理系人間ということをずっと申し上げていますので、こういうところに目が行きがちなのですが、これが雑誌の中でも「学会誌」という分類に当てはまるものの特徴といえるでしょう。

ここで、東日本大震災はすさまじいインパクトだったので、もう今更言うまでもありませんが、余震、あるいは(余震だとは断定できなくても)その影響を受けていると思われる地震でも、津波警報・注意報が発令され、また実際に津波が観測された地震も1つ2つはあった覚えがあります。
ああいうときに、「50cmとかで、何であんなに大騒ぎするんだ?たかが人の身長の1/3くらいじゃん」という方も、やはりまだまだいらっしゃるんじゃないかなあと思うんです。

でも、この実験で分かるとおり、水は物理的な破壊力もすさまじく大きい物質です。
水圧に関しては、高校レベルの物理でも「浮力」関連で出てきますし、大学レベルなら流体力学(土木では「水理学」)でガッツリ取り扱われます。
が、そういった座学で数値だけを学習しても、30cm~40cmとかでもドアが開かなくなったり、歩くこともままならなくなったりするということは、実際に体験しないと分からないことでもありますよね。
(「物理的な破壊力『も』」という言い方をしたのは、もちろん水は化学的な性質もかなり特殊かつ重要で、有益な物質も有害な物質も輸送する溶媒になるものだからです。
そこは土木系だと水質汚濁などの環境関連、あるいはこのエントリにも書いた水道分野と密接に関係する衛生工学などを中心に取り上げられます。)

というわけで、水害に対する適切な避難行動に必要な知識を体感するための室内実験の話題を中心に、地下空間と水害の話を取り上げました。
この特集ではもう一つ「地下空間の水害」を中心に取り上げた記事があるので、次回(といっても、多分また間に別の話題を挟みますが)はそちらを取り上げる予定です。

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