「黒い川」と日本神話

島根県に斐伊川という川があります。この川は謎の6で取り上げた天井川としても知られていますが、実は日本という国のなりたちにも深い関わりがあるのです。
『古事記』や『日本書紀』などを見ると、日本の神々の歴史は出雲(島根県)から始まったとされています。これは国造りの神とされているオオクニノヌシノカミの祖先の神々が、定住の地を求めて日本各地を渡り歩き、出雲を選んだからです。しかし、日本にはもっと温暖なところはあったはずなのに、なぜ寒くて雪深い出雲だったのでしょうか。
この問いに対して神話は、それは「出雲には黒い川があるからだ」という答えを与えています。そしてこの「黒い川」こそが、かつて「肥の川」と呼ばれていた、現在の斐伊川であると考えられています。つまり斐伊川が、出雲を「日本発祥」の地にしたともいえるのです。
斐伊川は船通山を源流として宍道湖にそそぐ、全長153kmの川です。おしなべて浅く、平坦な河床が続いていることもこの川の特徴ですが、それより何より異様なのが、上流の方では川が真っ黒に見えることです。水が汚れて黒ずんでいるといったものではなく、本当にブラックなのです。
これはなぜなのか、神々はなぜこの川を見て出雲を選んだのか、謎解きをしましょう。
皆様こんにちは。

実は、今日のエントリ、拙ブログとしては変則的な出だしです。

何がかといいますと、私のブログ記事、これまで冒頭で引用を書くときは、引用として自分の文章と区別した部分の最後に、引用元を書いてきました。

今回、その書き方をしなかった理由は、この後にその答えの書かれた部分を続けて引用しているためですが、ここでお話ししておきましょう。

私は、過去にも自分のことを「思いっきり理系脳に振り切れた人間」という言い方をしていたこともありましたが、
そんな気質もあってか、講談社ブルーバックスは、分野にかかわらずそこそこ色々な本に手を付けています(そして、台風10号の記事でも同じ地球科学系の本から引用しました)。
ですが、そんな私の印象としても、そのブルーバックスの本にこういう記述があるのは、結構珍しいと思います。

さて、では気になる答えの部分を。
砂粒は飛散し、川にも大量に入り込んで、流されます。この時、軽い鉱物は流されやすいので、下流の海岸近くまで運ばれて、河床に堆積します。逆に重い鉱物は、上流で沈み、堆積します。このように重さによって、河床に堆積する鉱物は分別されていくのです。
最も軽い鉱物は、石英や長石です。それに対して最も重い鉱物は、磁鉄鉱です。斐伊川をおおう黒い鉱物の正体は、この磁鉄鉱なのです。
磁鉄鉱とは、いわば天然の砂鉄で、磁石の性質をもっています。密度は5.2g/ccもあり、地球の密度によく似ています。地球が最も多くもつ元素が酸素と鉄であるように、磁鉄鉱もほとんど鉄と酸素からできています。密度が大きい磁鉄鉱は重く、川の水勢が強くてもなかなか流れません。そのため上流の河床にびっしりと堆積して、あたかも斐伊川の水が黒い色をしているように見せているのです。
オオクニノヌシノカミの先祖の神々が「黒い川」がある出雲を選んだ理由も、ここにあります。
彼らは川の砂鉄から鉄を取り出せることを認識していたのです。当時、鉄は武具や農具を製造するための最重要資源でした。「たたら」を踏んで砂鉄を溶かし、鉄を取り出す場面は映画「もののけ姫」にも出てきます。斐伊川の黒い河床は、神々にとっては夢のような資源の宝庫だったのです。

いやはや、私にとっては本当に衝撃的な内容でしたね、これ。

私の専門分野は、おおざっぱに言えば「河川工学」なのですが、これも自然地理学的な分野との絡みはあります。
ですが、人文とか歴史とかいう分野から川を見ることはあまりないだけに、こういう記述は新鮮さを感じます。
(ただしもちろん、同じ川に関する土木系でも、流域の都市計画とかを専門にする方にとっては、それらが結構重要な問題を含んでいることもありますが。)
そして、凄く俗世間離れしたものというイメージが強い「神話」と、人間が人間らしくあるための活動の代表ともいえる「産業」が、こういう形で結びついているということが、もう言葉で言い表せない驚きでした。

で、これを読んだ後にもいろいろ調べましたが、上流側で水が黒く映っているのがよくわかる写真がなかなか見つかりませんでした。
ただ、下流側では砂鉄で黒くなった箇所の分かる写真がこちらにあります(上記の通り密度が大きい分、下流まで流れるのは凄く粒径の細かいのものということになりますね)。

日本の地形って、皆様ご存知のように、狭い国土に対して起伏が凄く大きいのが特色ですよね。
で、こうやって純粋な科学として色々勉強してみると、場所ごとの特色が凄く表れてくると思いますし、それが地域の文化や歴史、あるいは社会と関わっているということに注目すると、新しい発見は無限に広がる可能性を持っていると思います。

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