平成28年台風10号の話題(1)-まずは気象分野から

皆様お疲れ様です。
9月に入り、秋の虫の声も聞こえてきましたが、それでも特に数日前までは朝晩もなかなか冷えないという気候が続いていましたね。

そして、日本でこの季節といえば、やはり台風です。
そんなわけで、今日は異例尽くしといわれた今年の台風10号のことについて。

まずは、8/30の産経新聞1面から、スキャンした図も載せて。


高気圧に挟まれ列島コース逆戻り

台風10号は一旦南西に向かってから”ブーメラン”のように東へ戻る異例の進路をたどった。例年と異なる気圧配置が迷走の原因だが、一時停滞した沖縄周辺で平年より高い海面水温の影響で勢力を拡大してかえってくる結果となった。
例年、8月は東から張り出した太平洋高気圧に列島は覆われ、台風は西へそれる。秋にかけて太平洋高気圧が衰退すると、台風は高気圧に沿って列島へ襲来するようになる。だが、今年8月下旬は太平洋高気圧が列島の東沖に位置し、大陸から張り出した別の高気圧との間に列島が挟まれる配置となっていた。
さらに台風10号は、太平洋高気圧に沿って北上しつつ、西寄りに進路を変える。28日以降、喚起を伴い上空を回転する気流「寒冷渦」が生じ、北西へ向かう強い風が吹いたため、台風は東北地方を南東から北西に横断する見込み。北西へ向かう台風は「極めて異例」(気象庁)という。
沖縄周辺で1週間近く停滞した台風10号は大きく勢力を拡大して戻ってきた。台風は海面水温27度以上で勢力を強めるが、この海域の水温は平年より1,2度高い30度前後だった。

台風10号.jpg

土木工学というと、産業基盤や社会基盤といった基盤、つまりいわゆる「インフラ(infrastructure)」を扱う分野ということがあり、かなりいろいろな他分野との関連性があります。
そして、その中でも特に結びつきが強いのが、地形学、気象学といった、高校の科目でいうと「地学」にあたる分野です。

で、理系の皆様方はほとんどが、物化生の3科目から2科目、その中でも工学系の方はほぼ全員物理と化学を勉強してきたと思います。
実際、私もそうだったわけです。
理科4科目の中でいうと、生物は医学・農学系など知識が必要になる専攻でも、結構大学に入学してからでも勉強できるというイメージがありますし、「専門に入ってからでも勉強できる」という傾向でいうと、地学はもっとそうなんですよね。

さて、私がこの記事で気になったのは、寒冷渦とかこの特異な移動のメカニズムに関することもそうです。
が、気象分野も色々未解明な部分が多いと思われますし、そこは一旦置いといて興味のある話題が挙がったらまた記事にするということにしまして、今日は最後の一文に書かれている海面水温のお話を少し深く取り上げてみたいと思います

台風が発生しやすい環境要因(発生するための必要条件)については古くからよく知られており、次の6つにまとめることができます。見慣れない専門用語がまじっていますが、それぞれこの後詳しく解説しますので、まずは台風発生にこれだけの条件が必要なのだということを知ってください。
1.コリオリ力がある程度の大きさで働くこと
2.対流圏下層に低気圧生渦度が存在すること
3.鉛直シアーが小さいこと
4.海水温度が水深60メートルまで26度以上あること
5.大気の状態が不安定であること
6.対流圏中層が湿っていること
(原文は丸数字)

引用元にもある通り色々と専門用語も出てきますが、「他に関しては興味のある方はこの本を買って読んでみてください」ということにしまして、海水面付近の温度について触れられた条件4に関する記述を詳しく見てみましょう。

条件4.海水温度が水深60メートルまで26℃以上あること
一般には、海面水温が高いほど、海面近くの大気に含まれる水蒸気の量は多くなります。台風のエネルギー源は暖かい海から供給される水蒸気であることを考えれば、条件4は当然だといえるでしょう。
海面水温だけでなく深さ60メートルの水温までを問題にしているのは、海面近くの風が強くなるにしたがって海水がかき混ぜられ、深海の冷たい海水の混入により海面水温が低下する効果を考慮しているからです。暖かい海水の広がりがより深いところまで及んでいれば、かき混ぜによる海面水温低下は緩和され、台風の発生を阻害する要因とはなりにくいというわけです。

皆様は、この「60メートル」という長さについて、どういう印象を持ちますでしょうか?
私は、「意外に深いところまで影響しているんだ」という印象を受けました。

「高さ」とか「深さ」、つまり鉛直方向の長さのスケールって、同じ長さでも水平方向より相対的に大きく感じるんですよね。
エベレストの9000m弱というと、それを登り切るなんてとてつもなく大変なことですが、水平距離で9kmと言えば自転車なら1時間もかからず行ける距離です。
他にも、傾斜について考えても、10度といっても結構急な坂道ですし、30度となると上から見たら絶壁のように感じるでしょう。
そういうわけで、海においては風の影響が強いとは言っても、その混合の効果が60メートルも下層まで及ぶというのは、地味ながらも自然の凄さを感じます。

こんな感じで、気象、あるいは今回は取り上げていませんが、地形や地質といった分野に関しても、色々勉強してみると興味を持てそうな内容はたくさんありますね。

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追記:
地震のことはたびたび記事にしてきましたが、実は風水害のことを主題にしたエントリは今回が初めてです。
で、これは偶然なのですが、今日(2016/9/10)は、鬼怒川水害からちょうど1年にあたるということです。
水防災についてもこの1年で色々と変わっていることもあることを学び、また感じていますが、それはまた改めて、ということで(ただ、一部については今回の台風に関する一連の記事の中でも触れるかもしれませんが)。

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